◆1 動詞の派生形
*あらゆる語根に、私たちが学び終えた全ての派生形があるわけではありません。一つの語根に基本形と数個の派生形があるのが普通です。しかし中には、基本形がなく、一つまたは数個の派生形を持つ語根もあります。ある語根に当該の派生形があるかないかは、慣用によってのみ定まります。
*それはともあれ、基本形動詞と派生形動詞で選択が可能な場合は、後者が採用される傾向にあります。なぜなら、派生形動詞の場合、未完了形の特徴母音や動名詞の型を考慮する必要がないからです。
*たとえば「買う」と言う時は、ほとんどの場合、第8形動詞の اِشْتَرَى が用いられ、基本形動詞の شَرَى が用いられることは稀です。同様に「拾う」「愛する」という場合には、基本形動詞の لَقَطَ [Aa] や حَبَّ [Ai] を用いることも可能ですが、ほとんどの場合、第8形動詞の اِلْتَقَطَ 、第4形動詞の أَحَبَّ が用いられます。
*このように、基本形動詞と全く同じ意味を持つ派生形動詞が存在する場合があります。また、同一の語根から派生した二つあるいはそれ以上の派生形動詞が、微妙なニュアンスの差はあるにせよ、ほぼ同じ意味を持つ場合もあります。
*たとえば「分かれる」と言う場合、第5形動詞の تَفَرَّقَ 、第6形動詞の تَفَارَقَ 、第8形動詞の اِفْتَرَقَ を用いることができます。この中では第6形動詞が使用される頻度としては最も少ないのですが、本書の第2課では構成の必要上、この動詞を用いています。
*未知の派生形動詞に直面した時は、まず語根の発見に努めなければなりません。その後、辞書で意味を探さなければなりませんが、たとえ基本形動詞の意味を知っている場合でも辞書で派生形動詞の意味を確認する必要があります。なぜなら、しばしば派生形動詞の意味が基本形からではなく、別の派生形動詞から派生している場合があるからです。
*以上のような保留条件はありますが、動詞の派生形には、以下のような意味傾向を指摘することができます。
◆2 動詞派生形の意味傾向
*第2形はしばしば、基本形動詞の「使役」あるいは「作動」の意味を表します。
(例1) عَلِمَ 知る→ عَلَّمَ 学ばせる・教える
(例2) سَلاَ (憂さを)忘れる→ سَلَّى 慰める・気晴らしさせる
*第3形は対象に対する便宜的・敵対的行為あるいは態度を表します。
(例) فَرَقَ 分離する→ فَارَقَ 別れる
*第4形はしばしば第2形と同様に、基本形動詞の「使役」あるいは「作動」の意味を表します。
(例1) خَرَجَ 出る→ يُخْرِجُ 出す
(例2) تَبِعَ 疲れる→ أَتْعَبَ 疲れさせる
*第5形はしばしば第2形から派生して、「再帰」を表します。
(例) هَيَّأَ 準備する→ تَهَيَّأَ 準備が整う
*第6形は、ある動作を表す基本形動詞または第3形動詞から派生した場合は、「動作の相互性」を表します。また、ある状態を表す基本形動詞から派生した場合は、「状態の装い」を表します。
(例1) تَبِعَ 後続する→ تَتَابَعَ 連続する
(例2) مَرِضَ 病気である→ تَمَارَضَ 仮病を使う
*第7形はしばしば「受身」を表します。
(例) كَشَفَ 暴く→ اِنْكَشَفَ 暴かれる
*第8形は「再帰」あるいは「動作の相互性」を表します。
(例1) غَسَلَ 洗う→ اِغْتَسَلَ 体を洗う・入浴する
(例2) زَحَمَ 押す・突く→ اِزْدَحَمَ 押し合う・混雑する
*第9形は形容詞から派生し、「色彩」または「身体的特徴」を表します。
(例) أَصْفَرُ 黄色い・(顔が)青白い→ اِصْفَرَّ 黄色くなる・(顔が)青ざめる
*第10形は、ある行為を表す基本形または第4形動詞から派生した場合は、「行為の要請」を表します。また、ある状態を表す基本形動詞から派生した場合は、「状態の評価」を表します。
(例1) أَعَانَ 助ける→ اِسْتَعَانَ 助けを求める
(例2) قَبُحَ 醜い→ اِسْتَقْبَحَ 醜いと思う
*なお、以上述べた意味傾向は一つの示唆であり、決して規則や法則ではありません。従って、以上の指摘が本巻の第1課から第10課までに出現する全ての動詞に適合するわけではありません。
◆3 不規則動詞派生形の活用
(1)ダブル動詞
*ダブル動詞派生形では、既に第1巻第20課で学んだダブル動詞基本形の活用に関する以下の規則が適用されます。
①第1語根と第2語根、第3語根がともに母音を持つ時は、第2語根は母音を失って第3語根と統合されます。
(例)第10形完了形の三人称単数男性形: اِسْتَحَقَّ → اِسْتَحْقَقَ 彼は値した
②第2語根と第3語根がともに母音を持ち、かつ第1語根がスクーンの時は、第2語根はその母音を第1語根に引き渡し、自身は第3語根と統合されます。
(例)第4形完了形の三人称単数男性形: أَحَبَّ → أَحْبَبَ 彼は愛した
③第3語根がスクーンの時は、2つの語根は分離して書かれます。
(例)第4形完了形の一人称単数男性形: أَحْبَبْتُ 私は愛した
*なお、第2形・第5形では第2語根が強勢子音化されるため、第2語根と第3語根が統合表記されることはありません。
(2)首弱動詞
*既に学んだように、同化動詞の基本形は未完了形で第1語根の و を失いますが、派生形ではそのまま保持されます。
(例) يُوَدِّعُ 彼は別れを告げます[第2形]/ يُوَافِقُ 彼は同意します[第3形]
*ただし、第8形では例外的に、第1語根の و は接中辞の ت に吸収されます。
(例) اِتَّفَقَ 彼は同意します
*また、第9課で述べた第1語根の音韻変化法則にも注意してください。
(例1) تُوْقِفُ [第4形未完了形・3単女]→ تُوقِفُ[彼女は止める]
(例2) إِوْقَافٌ [第4形・動名詞]→ إِيقَافٌ[止めること]
(3)くぼみ動詞
*第2形・第3形・第5形・第6形・第9形では、第2語根の弱文字は通常の子音として強変化するため、規則動詞の活用と同型になります。
*第4形・第10形では第1語根がスクーンになるため、第3語根が母音を持つ場合は、第2語根の母音が第1語根に移動し、第2語根は第1語根の新たな母音に見合う長母音符号に変わります。
(例1) أَرْوَدَ [第4形完了形・3単男]→ أَرَوْدَ[中間形]→ أَرَادَ[彼は欲した]
(例2) يُرْوِدُ [同未完了形・3単男]→ يُرِوْدُ[中間形]→ يُرِيدُ[彼は欲する]
第3語根がスクーンになる時は、第2語根の母音は第1語根に移動した後、消滅します。これは、アラビア語の音韻体系では無母音音節の連続が許されないためです。
(例1) أَرْوَدْتُ [第4形完了形・1単]→ أَرَوْدْتُ[中間形]→ أَرَدْتُ[私は欲した]
(例2) يُرْوِدْنَ [同未完了形・3複女]→ يُرِوْدْنَ[中間形]→ يُرِدْنَ[彼女たちは欲する]
*第7形・第8形では第1語根または接中辞の ت が母音を持つため、第2語根は第1語根の母音に見合う長母音符号に変わります。
(例1) اِخْتَيَرَ [第8形完了形・3単男]→ اِخْتَارَ[彼は選んだ]
(例2) يَخْتَيِرُ [同未完了形・3単男]→ يَخْتَارُ[彼は選ぶ]
第3語根がスクーンになる場合は、第2語根は消滅します。
(例1) اِخْتَيَرْتُ [第8形完了形・1単]→ اِخْتَرْتُ[私は選んだ]
(例2) يَخْتَيِرْنَ [同未完了形・3複女]→ يَخْتَرْنَ[彼女たちは選ぶ]
(4)弱動詞
*弱動詞の派生形では、第3語根はすべて ي に転じます。また、派生形の完了形では、第2語根は常に母音 [a] をとります。また、未完了形では、第5形・第6形では第2語根は母音 [a] をとり、他の派生形では母音 [i] をとります。
*このため、弱動詞派生形の活用は、第5形・第6形では نَهَى [Aa] 型、他の派生形では بَنَى [Ai] 型をとることになります。
*また、弱動詞派生形の能動分詞は、第2語根が常に母音 [i] をとるため、 قَاضٍ 型活用をとります。
*なお、既に第1課で述べたように、3語根動詞の派生形には第11形から第15形まであります。また、4語根動詞にも第2形から第4形まであります。しかし、いずれも使用頻度は極めて低いため、本書では割愛します。
*最後に、派生形動詞の活用と能動分詞・動名詞の型を確実に覚えるようにしてください。母音符号の付されていないテキストを読解できるようになるためには、それが唯一の方法です。