第5章 動詞の法


1 未完了形の3つの法

*これまで私たちが学んできた未完了形の動詞は、すべて直説法におかれた動詞でした。しかし、未完了形には他に、接続法・要求法・命令法という3つの法があります。この課から第16課にかけて、私たちはこの3つの法を学ぶことになります。

*この3つの法の活用形はいずれも、これまで学んだ未完了形直説法の活用形をベースにしています。活用接尾辞が変化するだけで、活用接頭辞は直説法のままです。従って、基本形でも派生形でも、活用のパターンは同一です。

*直説法からの語形変化は、第3語根の母音の形態によって定まります。第3語根の母音の形態を基準にすると、未完了形直説法の活用形は、以下のように分類できます。

短母音人称群(S):第3語根の母音を、原則的には [u] に変えるだけで、特別な活用接尾辞を付加することのない人称です。具体的には、三人称単数男性形・女性形、二人称単数男性形、一人称単数・双数・複数形がこの人称群に属します。

長母音人称群(L): 第3語根の母音を [i:] [a:] [u:] のいずれかの長母音に変え、更に活用接尾辞として نَ または نِ を付加する人称です。具体的には、二人称単数女性形、三人称双数男性形・女性形、二人称双数形、三人称複数男性形、二人称複数男性形がこの人称群に属します。

無母音人称群(M):第3語根の母音をスクーンに変え、更に活用接尾辞として نَ を付加する人称です。具体的には、三人称複数女性形、二人称複数女性形がこの人称群に属します。

*この3つの法の語形変化は、一定の規則に基づいて、ほぼ自動的に導き出せます。では、接続法の活用から始めましょう。


2 接続法の作り方

*未完了形の接続法は、未完了形の直説法から以下のように作ります。

短母音人称群、即ち、三人称単数男性形・女性形、二人称単数男性形、一人称単数・双数・複数形では、最終音節の母音をダンマからファタハに変えます。ただし、一部の弱動詞では例外的に直説法のままですが、これについては次項で述べます。

(例1) أَبْعَثُ 私は送る[直説法]→ أَبْعَثَ [接続法]

(例2) يَرُدُّ 彼は返す[直説法]→ يَرُدَّ [接続法]

(例3) أَقُولُ 私は言う[直説法]→ أَقُولَ [接続法]

長母音人称群、即ち、二人称単数女性形、三人称双数男性形・女性形、二人称双数形、三人称複数男性形、及び二人称複数男性形では、語末の ن を脱落させます。

(例1) تَخْرُجِينَ 貴女は出る[直説法]→ تَخْرُجِي [接続法]

(例2) يَتَجَوَّلاَنِ 彼ら二人は散策する[直説法]→ يَتَجَوَّلاَ [接続法]

なお、三人称複数男性形及び二人称複数男性形では、語末の ن を脱落させた後、「防御のアリフ」を書き添えます。

(例1) تَأْتُونَ あなた方は来る[直説法]→ تَأْتُوا [接続法]

(例2) تَتَغَدَّوْنَ あなた方は昼食をとる[直説法]→ تَتَغَدَّوْا [接続法]

無母音人称群、即ち、三人称複数女性形と二人称複数女性形では、直説法のままです。

(例) يَشْرَبْنَ 彼女たちは飲む[直説法]→ يَشْرَبْنَ [接続法]

*参考のために、基本形動詞の活用を掲げます。なお、不規則動詞のS人称群とM人称群については、それぞれの代表的な人称の活用にとどめます。

[11−1]規則動詞 فَعَلَ の接続形


未完了形直説法

未完了形接続法


単数形

双数形

複数形

単数形

双数形

複数形

3男

S

يَفْعَلُ

L

يَفْعَلاَنِ

L

يَفْعَلُونَ

S

يَفْعَلَ

L

يَفْعَلاَ

L

يَفْعَلُوا

3女

S

تَفْعَلُ

L

تَفْعَلاَنِ

M

يَفْعَلْنَ

S

تَفْعَلَ

L

تَفْعَلاَ

M

يَفْعَلْنَ

2男

S

تَفْعَلُ


L


تَفْعَلاَنِ

L

تَفْعَلُونَ

S

تَفْعَلَ


L


تَفْعَلاَ

L

تَفْعَلُوا

2女

L

تَفْعَلِينَ

M

تَفْعَلْنَ

L

تَفْعَلِي

M

تَفْعَلْنَ

1共

S

أَفْعَلُ

S

نَفْعَلُ

S

نَفْعَلُ

S

أَفْعَلَ

S

نَفْعَلَ

S

نَفْعَلَ


[11−2]不規則動詞基本形の接続形

完了形

3単男(S)

2単女(L)

3双(L)

3複男(L)

3複女(M)


قَرَأَ

يَقْرَأُ

تَقْرَئِينَ

يَقْرَآنِ

يَقْرَؤُونَ

يَقْرَأْنَ

يَقْرَأَ

تَقْرَئِي

يَقْرَآ

يَقْرَؤُوا

يَقْرَأْنَ


رَدَّ

يَرُدُّ

تَرُدِّينَ

يَرُدَّانِ

يَرُدُّونَ

يَرْدُدْنَ

يَرُدَّ

تَرُدِّي

يَرُدُّا

يَرُدُّوا

يَرْدُدْنَ


وَقَفَ

يَقِفُ

تَقِفِينَ

يَقِفَانِ

يَقِفُونَ

يَقِفْنَ

يَقِفَ

تَفِقِي

يَقِفَا

يَقِفُوا

يَقِفْنَ


قَالَ

يَقُولُ

تَقُولِينَ

يَقُولاَنِ

يَقُولُونَ

يَقُلْنَ

يَقُولَ

تَقُولِي

يَقُولاَ

يَقُولُوا

يَقُلْنَ


3 弱動詞の接続形

*弱動詞のうち、未完了形の特徴母音として [a] を持つ بَقِيَ [Ia] 型または نَهَى [Aa] 型の基本形弱動詞、及び弱動詞派生形の第5形・第6形では第3語根がアリフ・マクスーラに変わっているため、例外的に直説法のままです。

(例1) أَبْقَى 私は留まる[直説法]→ أَبْقَى [接続法]

(例2) نَرَى 我々は見る[直説法]→ نَرَى [接続法]

*それ以外の場合は、すべて本則に従います。

(例) أَدْعُو 私は招く[直説法]→ أَدْعُوَ [接続法]

[11−3]弱動詞基本形の接続形

完了形

3単男(S)

2単女(L)

3双(L)

3複男(L)

3複女(M)


دَعَا

يَدْعُو

تَدْعِينَ

يَدْعُوَانِ

يَدْعُونَ

يَدْعُونَ

يَدْعُوَ

تَدْعِي

يَدْعُوَا

يَدْعُوا

يَدْعُونَ


بَنَى

يَبْنِي

تَبْنِينَ

يَبْنِيَانِ

يَبْنُونَ

يَبْنِينَ

يَبْنِيَ

تَبْنِي

يَبْنِيَا

يَبْنُوا

يَبْنِينَ


رَأَى

يَرَى

تَرَيْنَ

يَرَيَانِ

يَرَوْنَ

يَرَيْنَ

يَرَى

تَرَيْ

يَرَيَا

يَرَوْا

يَرَيْنَ


بَقِيَ

يَبْقَى

تَبْقَيْنَ

تَبْقَيَانِ

تَبْقَوْنَ

يَبْقَيْنَ

يَبْقَى

تَبْقَيْ

تَبْقَيَا

تَبْقَوْا

يَبْقَيْنَ


4 派生形動詞の接続形

*派生形でも、作り方は同一です。参考のため、第4形の活用と第5形弱動詞の活用を掲げます。

[11−4]派生形動詞の接続形

完了形

3単男(S)

2単女(L)

3双(L)

3複男(L)

3複女(M)


أَدْخَلَ

يُدْخِلُ

تُدْخِلِينَ

يُدْخِلاَنِ

يُدْخِلُونَ

يُدْخِلْنَ

يُدْخِلَ

تُدْخِلِي

يُدْخِلاَ

يُدْخِلُوا

يُدْخِلْنَ


أَطْفَأَ

يُطْفِئُ

تُطْفِئِينَ

يُطْفِئَانِ

يُطْفِئُونَ

يُطْفِئْنَ

يُطْفِئَ

تُطْفِئِي

يُطْفِئَا

يُطْفِئُوا

يُطْفِئْنَ


أَتَمَّ

يُتِمُّ

تُتِمِّينَ

يُتِمَّانِ

يُتِمُّونَ

يُتْمِمْنَ

يُتِمَّ

تُتِمِّي

يُتِمَّا

يُتِمُّوا

يُتْمِمْنَ


أَوْقَفَ

يُوقِفُ

تُوقِفِينَ

يُوقِفَانِ

يُوقِفُونَ

يُوقِفْنَ

يُوقِفَ

تُوقِفِي

يُوقِفَا

يُوقِفُوا

يُوقِفْنَ


أَرَادَ

يُرِيدُ

تُرِيدِينَ

يُرِيدَانِ

يُرِيدُونَ

يٍُرِدْنَ

يُرِيدَ

تُرِيدِي

يُرِيدَا

يُرِيدُوا

يٍُرِدْنَ


أَلْقَى

يُلْقِي

تُلْقِينَ

يُلْقِيَانِ

يُلْقُونَ

يُلْقِينَ

يُلْقِيَ

تُلْقِي

يُلْقِيَا

يُلْقُوا

يُلْقِينَ


تَغَدَّى

يَتَغَدَّى

تَتَغَدَّيْنَ

يَتَغَدَّيَانِ

يَتَغَدَّوْنَ

يَتَغَدَّيْنَ

يَتَغَدَّى

تَتَغَدَّيْ

يَتَغَدَّيَا

يَتَغَدَّوْا

يَتَغَدَّيْنَ


*なお、弱動詞の派生形の場合、既に述べたように第5形と第6形では、短母音人称群の接続形は例外的に未完了形のままです。

(例1)第8形: أَشْتَرِي 私は買う[直説法]→ أَشْتَرِيَ [接続法]

(例2)第5形: تَتَغَدَّى 彼女は昼食を取る[直説法]→ تَتَغَدَّى [接続法]


5 接続法の用法

*《接続法要求詞》と呼ばれる語の後では、自動的に接続法が採用されます。

*最も頻繁に用いられるのは、接続詞の أَنْ です。この接続詞は「〜できる」「〜したい」

「拒む」「試みる」「怖れる」「好む」「望む」「希求する」などという意味を表す動詞とともに用いられます。接続法を用いれば、動名詞を知らなくても同じ意味が表現できます。

(例) أَرَدْتُ أَنْ أُسَلِّمَ عَلَيْكَ 私はあなたに挨拶したくなりました。[接・1単]

*「〜するために」という肯定目的を表す接続詞 لِكَيْ / كَيْ / لِ の後でも、自動的に接続法が採用されます。

(例) أَنَا ذَاهِبَةٌ الآنَ إِلَى البَرِيدِ لِأَشْتَرِيَ طَابِعًا بَرِيدِيًّا

私はこれから切手を買うために郵便局に行きます。[接・1単]

*「〜しないために」という否定目的を表す接続詞 لئَلاَّ / لِكَيْلاَ / كَيْلاَ の後でも、同様です。

(例) أُرِيدُ أَنْ أَصِلَ عِنْدَ فَتْحِ البَابِ لِكَيْلاَ يَكُونَ كَثِيرٌ مِنَ الاِزْدِحَامِ

私は極度の混雑がないように戸が開く時に着きたいのです。[接・3単男]

*否定の未来詞 لَنْ や限度を示す接続詞 حَتَّى が用いられた時も同様です。

(例) لَنْ تَخْرُجِي مِنْ هُنَا حَتَّى تَشْرَبِي مَعِي شَيْئًا

あなたは私と一緒に何か飲むまではここから出てはいけません。[接・2単女]

<注>なお、主文の動詞が完了形におかれている時は、限度を示す接続詞 حَتَّى に後続する動詞は完了形におかれます。

(例) مَا خَرَجْتُ حَتَّى شَرِبْتُ قَهْوَةً

私はコーヒーを飲むまで出ませんでした。[完・1単]


6 祈願文(2)

*祈願文が多くの場合、完了形動詞を用いて表されることは既に第10課で学びましたが、

この課には同じタイプの祈願文が出ています。

(例) سَلَّمَكِ اللَّهُ 神があなたを健やかになさいますように。


7 共性名詞

*名詞の中には、男性名詞としても女性名詞としても用いられるものがあります。これを《共性名詞》といいますが、この課には二つ例が出ています。

(例1) كَيْفَ حَالُكِ ؟ ご機嫌いかがですか。

(例2) وَفِي طَرِيقِي إِلَى البَرِيدِ مَرَرْتُ بِدَارِكَ

郵便局に行く途中、私はあなたの家の前を通りかかりました。