◆1 受動態
*これまで私たちが学んだ動詞は、すべて能動態でした。アラビア語の動詞には、当然受動態もあります。この課と次の第18課では、動詞の受動態と受動分詞を学びます。
*一般に基本形と派生形の動詞は受動態を持ちますが、以下のような動詞は受動態を持ちません。
① فَعُلَ 型の基本形自動詞(例)كَبُرَ [Uu] 大きくなる・年をとる
② فَعَلَ 型または فَعِلَ 型基本形動詞のうちで、行為や動作ではなく状況や状態を示す動詞(例) صَلَحَ [Au] 正しい・善良である / سَوِدَ [Ia] 黒い・黒くなる
③派生形第9形の動詞(例) اِحْمَرَّ 赤い・赤くなる
◆2 受動態完了形の活用
*受動態の完了形は、能動態の完了形から次のように作ります。
①第2語根より前の母音を、スクーンであるものを除いて、すべてダンマに変えます。
②第2語根の母音をカスラに変えます。
(例1) كَتَبَ 書いた→ كُتِبَ 書かれた
(例2) قَدَّمَ 贈った→ قُدِّمَ 贈られた
(例3) اِسْتَقْبَلَ 迎えた→ اُسْتُقْبِلَ 迎えられた
*ダブル動詞の場合は、以下のような活用になります。
①第3語根が母音を持つ人称では、第2語根と第3語根がシャッダで統合されるため、受動態の識別音である第2語根のカスラは第3語根に吸収されます。1
(例1) صَبَّ 注いだ→ صُبِبَ [中間形]→ صُبَّ 注がれた
(例2) اِحْتَجَّ 抗議した→ اُحْتُجِجَ [中間形]→ اُحْتُجَّ 抗議された
ただし、第1語根がスクーンになる第4形と第10形では、受動態の識別音である第2語根のカスラは第1語根に移動します。
(例1) أَحَبَّ 愛した→ أُحْبِبَ [中間形]→ أُحِبَّ 愛された
(例2) اِسْتَحَقَّ 値する→ اُسْتُحْقِقَ [中間形]→ اُسْتُحِقَّ 値された
②第3語根が母音を持たない人称では、第2語根と第3語根が分離表記されるため、結果的に規則動詞と同型の活用になります。
(例1) صَبَبْتُ 私は注いだ→ صُبِبْتُ 私に注がれた
(例2) أَحْبَبْنَ 彼女たちは愛した→ أُحْبِبْنَ 彼女たちは愛された
*同化動詞の場合、完了形では規則動詞と全く同型の活用です。
(例) وَجَدْتُمْ あなた方は発見した→ وُجِدْتُمْ あなた方は発見された
*くぼみ動詞の場合は、第2語根が強変化する第2形、第3形、第5形、第6形を除き、くぼみ動詞の変形規則に従って第2語根の母音が移動するため、第2語根直前の音節が、受動態の識別音であるカスラの長母音 [i:] をとります。
(例1) قَالَ 言う→ قُوِلَ [中間形]→ قِيلَ 言われる
(例2) اِحْتَاجَ 必要とする→ اُحْتُوِجَ [中間形]→ اُحْتِيجَ 必要とされる
*弱動詞の場合は、第2語根が母音 [i] を持つため、第3語根の و は強制的に ي に変換されます。その結果、すべての弱動詞は、第3語根の種別には関わらず、また基本形及びあらゆる派生形で بَقِيَ 型の活用をとります。
(例1) دَعَا 招く→ دُعِوَ (規則)→ دُعِيَ 招かれる
(例2) أَعْطَى 与える→ أُعْطِوَ (規則)→ أُعْطِيَ 与えられる
*完了形の活用をまとめると、以下のような表になります。
[17−1]受動態完了形の活用
|
規則動詞 |
ダブル動詞 |
同化動詞 |
くぼみ(W) |
くぼみ(Y) |
弱動詞 |
基 |
فُعِلَ |
صُبَّ |
وُجِدَ |
قِيلَ |
بِيعَ |
دُعِيَ |
Ⅱ |
فُعِّلَ |
هُدِّدَ |
وُدِّعَ |
قُوِّمَ |
ضُيِّعَ |
سُلِّيَ |
Ⅲ |
فُوعِلَ |
مُوسَّ |
وُوفِقَ |
قُووِمَ |
بُويِعَ |
قُوسِيَ |
Ⅳ |
أُفْعِلَ |
أُحِبَّ |
أُوقِفَ |
أُعِينَ |
أُضِيعَ |
أُعْطِيَ |
Ⅴ |
تُفُعِّلَ |
تُحَقِّقَ |
تُوُقِّفَ |
تُعُوِّدَ |
تُهَيِّئَ |
تُسُلِّيَ |
Ⅵ |
تُفُوعِلَ |
تُمُوسَّ |
تُوُوصِلَ |
تُمُووِتَ |
تُزُوِيدَ |
تُدْوِعِيَ |
Ⅶ |
اُنْفُعِلَ |
اُنْصُبَّ |
---- |
اُنْسِيقَ |
اُنْبِيعَ |
اُنْحُنِيَ |
Ⅷ |
اُفْتُعِلَ |
اُحْتُجَّ |
اُتُّفِقَ |
اُحْتِيجَ |
اُخْتِيرَ |
اُشْتُكِيَ |
Ⅹ |
اُسْتُفْعِلَ |
اُسْتُحِقَّ |
اُسْتُوقِفَ |
اُسْتُرِيحَ |
اُسْتُزِيدَ |
اُسْتُدْعِيَ |
◆3 受動態未完了形の活用
(1)規則動詞
*受動態の未完了形をつくるには、まず能動態未完了形の活用接頭辞の最初の音節だけをダンマに変えます。あとは、第2語根の母音をファタハに変えるだけです。
(例1) يَشْرَبُ [能動態基本形・3単男]→ يُشْرَبُ[同・受動態]
(例2) يَتَقَدَّمُ [能動態第5形・3単男]→ يُتَقَدَّمُ[同・受動態]
(例3) يَقْتَرِحُ [能動態第8形・3単男]→ يُقْتَرَحُ[同・受動態]
(例4) يَسْتَهْلِكُ [能動態第10形・3単男]→ يُسْتَهْلَكُ[同・受動態]
(2)ダブル動詞
*第2語根と第3語根が統合表記されるか否かは、能動態の場合と同じです。従って、第2語根と第3語根が統合表記されている人称では、活用接頭辞の最初の母音をダンマに変えた後、第2語根が移動してきている第1語根の母音をファタハに変えます。
(例) يَرُدُّ [能動態基本形・3単男]→ يُرَدُّ[同・受動態]
*第2語根と第3語根が分離表記されている人称では、規則動詞の場合と同様に、活用接頭辞の最初の母音をダンマに変えた後、第2語根の母音をファタハに変えます。
(例) يَرْدُدْنُ [能動態基本形・3複女]→ يُرْدَدْنُ[同・受動態]
(3)同化動詞
*第1語根が母音を持つ第2形、第3形、第5形、第6形では、規則動詞の派生形と同型になります。
*第1語根がスクーンで、直前の音節が短母音 [u] を持つ基本形、第4形では、第1語根の و は発音記号が消えて、長母音 [u:] を表す長音化文字に変わります。
(例) يَجِدُ [能動態基本形・3単男]→ يُوْجَدُ [中間形]→ يُوجَدُ[同・受動態]
*なお、第1語根がスクーンで、直前の音節が短母音 [a] を持つ第10形では、第1語根の و はそのまま短母音 [a] と、二重母音 [aw] を構成します。
(例) يَسْتَوْقِفُ [能動態第10形・3単男]→ يُسْتَوْقَفُ[同・受動態]
(4)くぼみ動詞
*第2語根が強変化する第2形、第3形、第5形、第6形では、規則動詞の派生形と同型になります。
*第1語根がスクーンになる基本形、第4形、第10形では、第2語根は母音 [a] を第1語根に引き渡し、自身は長母音 [a:] を表すアリフに変わります。
(例) يَبِيعُ [能動態基本形・3単男]→ يُبْيَعُ [中間形]→ يُبَاعُ[同・受動態]
*第2語根直前の音節が短母音 [a] である第7形と第8形では、第2語根は長母音 [a:] を表すアリフに変わります。
(例) يَحْتَاجُ [能動態第8形・3単男]→ يُحْتَوَجُ [中間形]→ يُحْتَاجُ[同・受動態]
(5)弱動詞
*基本形・派生形を問わず第2語根が母音 [a] を持つため、第3語根はすべてアリフ・マクスーラにかわります。
(例) يَشْوِي [能動態基本形・3単男]→ يُشْوَى[同・受動態]
*未完了形の活用をまとめると、以下のような表になります。
[17−2]受動態未完了形の活用
|
規則動詞 |
ダブル動詞 |
同化動詞 |
くぼみ(W) |
くぼみ(Y) |
弱動詞 |
基 |
يُفْعَلُ |
يُصَبُّ |
يُوجَدُ |
يُقَالُ |
يُبَاعُ |
يُدْعَى |
Ⅱ |
يُفَعَّلُ |
يُهَدَّدُ |
يُوَدَّعُ |
يُقَوَّمُ |
يُضَيَّعُ |
يُسَلَّى |
Ⅲ |
يُفَاعَلُ |
يُمَاسُّ |
يُوَافَقُ |
يُقَاوَمُ |
يُبَايَعُ |
يُقَاسَى |
Ⅳ |
يُفْعَلُ |
يُحَبُّ |
يُوقَفُ |
يُعَانُ |
يُضَاعُ |
يُعْطَى |
Ⅴ |
يُتَفَعَّلُ |
يُتَحَقَّقُ |
يُتَوَقَّفُ |
يُتَعَوَّدُ |
تُهَيِّئَ |
يُتَسَلَّى |
Ⅵ |
يُتَفَاعَلُ |
يُتَمَاسُّ |
يُتَوَاصَلُ |
يُتَمَاوَتُ |
تُزُوِيدَ |
يُتَدَاعَى |
Ⅶ |
يُنْفَعَلَ |
يُنْصَبُّ |
---- |
يُنْسَاقُ |
اُنْبِيعَ |
يُنْحَنَى |
Ⅷ |
يُفْتَعَلَ |
يُحْتَجُّ |
يُتَوَفَّقُ |
يُحْتَاجُ |
اُخْتِيرَ |
يُشْتَرَى |
Ⅹ |
يُسْتَفْعَلَ |
يُسْتَحَقُّ |
يُسْتَوْقَفُ |
يُسْتَرَاحَ |
اُسْتُزِيدَ |
يُسْتَدْعَى |
◆4 基本形動詞の受動分詞
*既に学んだように、基本形の受動分詞は مَفْعُولٌ 型をとります。
(例) شَرِبَ 飲む→ مَشْرُوبٌ
*ダブル動詞・同化動詞の場合も同様です。
(例1) مَدَّ 広げる→ مَمْدُودٌ
(例2) وَجَدَ 存在する→ مَوْجُودٌ
*弱動詞では、第3語根の弱文字が直前の長母音 [u:] と語形変化を起こします。
①第3語根が و の場合は、連続する و がシャッダで統合されて مَفْعُوٌّ 型になります。
(例) دَعَا 呼ぶ→ مَدْعُووٌ[理論形]→ مَدْعُوٌّ
②第3語根が ي の場合は、長母音 [u:] を示す و が ي に変わった後、第2語根の母音が [i] に変わり、連続する ي がシャッダで統合されて最終的に مَفْعِيٌّ 型になります。
(例1) بَنَى 建てる→ مَبْنُويٌ[理論形]→ مَبْنِييٌ[中間形]→ مَبْنِيٌّ
(例2) شَوَى 焼く→ مَشْوُويٌ[理論形]→ مَشْوِييٌ[中間形]→ مَشْوِيٌّ
*くぼみ動詞の受動分詞に関しては、次の第18課で学びます。
◆5 受動態の用法
*アラビア語の受動態には、動作の受動性を表す通常の用法の他に、フランス語の無人称構文に相当する用法もあります。このためアラビア語では、各種の存在動詞を除き、たとえ自動詞であっても受動態が可能です。
(例) يَتَمَهَّلُ 彼はゆっくり行う[能動態]/ يُتَمَهَّلُ それはゆっくり行われる[受動態]
◆6 名詞 بَرَّادَةٌ
*この語は通常「冷凍庫」「冷蔵庫」の意味で用いられますが、マグレブ地域では「ティーポット」「急須」の意味で用いられます。また بَرَّادٌ という語形もあります。
1ただし、第2語根が強変化する第2形と第5形を除きます。