◆1 くぼみ動詞基本形の受動分詞
*既に学んだように基本形の受動分詞は مَفْعُولٌ 型をとり、第1語根は常にスクーンです。このため、くぼみ動詞基本形の受動分詞では、第2語根は自身の母音を第1語根に引き渡した後に消滅しますが、第2語根の種類に応じて、母音の引き渡し方が異なります。
*第2語根が و のくぼみ動詞の場合、第2語根は自身の母音 [u] を第1語根に引き渡した後に消滅します。そのため、受動分詞は مَفُولٌ 型をとります。
(例) قَادَ 指揮する→ مَقْوُودٌ [中間形]→ مَقُودٌ [指揮される者、従卒]
*一方、第2語根が ي のくぼみ動詞の場合、第2語根は同様に消滅しますが、その出自の痕跡を残すため、母音 [i] を第1語根に引き渡します。そのため、長母音符号の و は強制的に ي に転化され、最終的に مَفِيلٌ 型をとります。
(例) هَابَ 畏れる→ مَهْيُوبٌ [中間形]→ مَهِوبٌ [中間形]→ مَهِيبٌ [畏れられた]
*なお、既に学んだように、くぼみ動詞の能動分詞は第2語根がハムザに変わるため、すべて فَائِلٌ 型をとります。
(例1) قَاوِدٌ → قَادَ [中間形]→ قَائِدٌ [能動分詞/指揮する者、リーダー]
(例2) هَايِبٌ → هَابَ [中間形]→ هَائِبٌ [畏れている者]
◆2 動詞派生形の受動分詞
*動詞の派生形では原則的に、能動分詞と受動分詞を区別するのは、第2語根の母音の違いです。即ち、能動分詞はカスラをとりますが、受動分詞はファタハをとります。
(例) اِقْتَرَحَ 提案する→ مُقْتَرِحٌ [能動分詞/提案者]
→ مُقْتَرَحٌ [受動分詞/提案されたもの、提案]
*ただし、次項以下で述べるように、くぼみ動詞やダブル動詞の場合は、この原則が崩れる場合があります。
◆3 くぼみ動詞派生形の受動分詞
*くぼみ動詞の派生形の場合、第2形・第3形・第5形・第6形・第9形1では、第2語根の و または ي は、通常の子音として強変化します。従って、分詞の態様は、規則動詞の派生形と同一です。
(例) تَجَوَّلَ 散策する→ مُتَجَوِّلٌ [能動分詞/散策者]
→ مُتَجَوَّلٌ [受動分詞/散策場所]
*ただし、第4形及び第10形では、能動分詞も受動分詞も第1語根がスクーンになるため、第2語根は自身の母音を第1語根に引き渡した後に、引き渡した母音に見合う長母音符号2に変わります。そのため、能動分詞と受動分詞を区別するのは、第1語根の母音の違いになります。
(能動分詞) أَرَادَ 欲する→ مُرْوِدٌ [中間形]→ مُرِيدٌ [欲する者]
(受動分詞) أَرَادَ 欲する→ مُرْوَدٌ [中間形]→ مُرَادٌ [欲されるもの]
*また第8形では、母音 [a] を持つ接中辞 تَ の影響で、能動分詞も受動分詞も、第2語根はともに長母音 [a:] を表すアリフに変わります。そのため、双方が同型になってしまいます。
(能動分詞) اِخْتَارَ 選ぶ→ مُخْتَوِرٌ [中間形]→ مُخْتَارٌ [選ぶ者]
(受動分詞) اِخْتَارَ 選ぶ→ مُخْتَوَرٌ [中間形]→ مُخْتَارٌ [選ばれた者]
*同様に第7形でも、第1語根が母音 [a] を持つため、第2語根は長母音 [a:] を表すアリフに変わります。そのため、双方が同型になってしまいます。
(能動分詞) اِنْسَاقَ 漂う→ مُنْسَوِقٌ [中間形]→ مُنْسَاقٌ [漂うもの]
(受動分詞) اِنْسَاقَ 漂う→ مُنْسَوَقٌ [中間形]→ مُنْسَاقٌ [漂う所]
*まとめると、以下のような表になります。
|
第2語根 |
例語 |
能動分詞 |
受動分詞 |
基本形 |
و |
قَادَ |
قَائِدٌ |
مَقُودٌ |
|
ي |
هَابَ |
هَائِبٌ |
مَهِيبٌ |
第4形 |
|
أَرَادَ |
مُرِيدٌ |
مُرَادٌ |
第7形 |
|
اِنْسَاقَ |
مُنْسَاقٌ |
مُنْسَاقٌ |
第8形 |
|
اِخْتَارَ |
مُخْتَارٌ |
مُخْتَارٌ |
第10形 |
|
اِسْتَعَانَ |
مُسْتَعِينٌ |
مُسْتَعَانٌ |
◆4 弱動詞派生形の分詞の活用
*派生形の能動分詞では第2語根は常に母音 [i] を持ち、受動分詞では常に母音 [a] を持ちます。また、弱動詞の派生形では、第3語根はすべて ي に転化します。このため、男性単数形では以下のような音韻変化が生じます。
*能動分詞の場合は、語末がカスラのタンウィーンに変わり、 قَاضٍ 型の三段変化をとります。一方、受動分詞の場合は、語末がアリフ・マクスーラに変わるため、最終的に格変化しないことになります。
(能動分詞) اِسْتَدْعَى 召喚する→ مُسْتَدْعِيٌ [中間形]→ مُسْتَدْعٍ [召喚する者]
(受動分詞) اِسْتَدْعَى 召喚する→ مُسْتَدْعًيٌ [中間形]→ مُسْتَدْعًى [召喚される者]
*男性双数形では、第3語根の ي が強変化するため、双数形の通常変化に従います。
①能動分詞: مُسْتَدْعِيَانِ [主格]→ مُسْتَدْعِيَيْنِ [所有格・対格]
②受動分詞: مُسْتَدْعَيَانِ [主格]→ مُسْتَدْعَيَيْنِ [所有格・対格]
*男性複数形は外部複数形をとりますが、以下のような音韻変化を生じ、能動分詞では主格がダンマの長母音、所有格・対格ではカスラの長母音になります。一方、受動分詞では、主格が [aw] の二重母音、所有格・対格では [ay] の二重母音になります。
①能動分詞
(主格) مُسْتَدْعٍ [男性単数形]→ مُسْتَدْعِيُونَ [中間形]→ مُسْتَدْعُونَ [同複数形]
(所有・対格) مُسْتَدْعٍ [男性単数形]→ مُسْتَدْعِييِنَنَ [中間形]→ مُسْتَدْعِينَ [同複数形]
②受動分詞
(主格) مُسْتَدْعًى [男性単数形]→ مُسْتَدْعَيُونَ [中間形]→ مُسْتَدْعَوْنَ [同複数形]
(所有・対格) مُسْتَدْعًى [男性単数形]→ مُسْتَدْعَيِينَ [中間形]→ مُسْتَدْعَيْنَ [同複数形]
*なお、女性形はすべて第3語根の ي が復活し、通常の格変化に従います。
*まとめると、以下のようになります。
|
|
能動分詞 |
受動分詞 |
||||
|
|
主格 |
所有格 |
対格 |
主格 |
所有格 |
対格 |
男性形 |
単数形 |
مُسْتَدْعٍ |
مُسْتَدْعٍ |
مُسْتَدْعِيًا |
مُسْتَدْعًى |
||
双数形 |
مُسْتَدْعِيَانِ |
مُسْتَدْعِيَيْنِ |
مُسْتَدْعَيَانِ |
مُسْتَدْعَيَيْنِ |
|||
複数形 |
مُسْتَدْعُونَ |
مُسْتَدْعِينَ |
مُسْتَدْعَوْنَ |
مُسْتَدْعَيْنَ |
|||
女性形 |
単数形 |
مُسْتَدْعِيَةٌ |
مُسْتَدْعِيَةٍ |
مُسْتَدْعِيَةً |
مُسْتَدْعَيَةٌ |
مُسْتَدْعَيَةٍ |
مُسْتَدْعَيَةً |
双数形 |
مُسْتَدْعِيَتَانِ |
مُسْتَدْعِيَتَيْنِ |
مُسْتَدْعَيَتَانِ |
مُسْتَدْعَيَتَيْنِ |
|||
複数形 |
مُسْتَدْعِيَاتٌ |
مُسْتَدْعِيَاتٍ |
مُسْتَدْعَيَاتٌ |
مُسْتَدْعَيَاتٍ |
◆5 受動態に関する注意
*派生形の受動分詞は、しばしば場所名詞あるいは時間名詞の機能を担います。なぜなら、基本形動詞とは異なり、派生形にはそのための特有な音型がないからです。
(能動分詞) اِسْتَرَاحَ 休憩する→ مُسْتَرْوِحٌ [中間形]→ مُسْتَرِيحٌ [休憩者]
(受動分詞) اِسْتَرَاحَ 休憩する→ مُسْتَرْوَحٌ [中間形]→ مُسْتَرَاحٌ [休憩地]
*既に第17課で述べたように、受動態におかれた動詞は文法的な主語を取ることもありますし、とらないこともあります。
(例) تُرْسَمُ دَائِرَةٌ 円が描かれます。
*ただし、受動態におかれた動詞は、西欧語の文法で言う「行為主補語」をとることはできません。たとえば「円がアフマドによって描かれる」と言う場合は、動詞を能動態にして、以下のように表現するしかありません。
(例) يَرْسُمُ أَحْمَدُ دَائِرَةً アフマドは円を描きます。
*なお、受動態には接続法も要求法もありますが、命令法はありません。
1なお、第9形に受動分詞はありません。
2カスラを引き渡した場合は ي に、ファタハを引き渡した場合は ا に変わります。