1 くぼみ動詞基本形の受動分詞

*既に学んだように基本形の受動分詞は مَفْعُولٌ 型をとり、第1語根は常にスクーンです。このため、くぼみ動詞基本形の受動分詞では、第2語根は自身の母音を第1語根に引き渡した後に消滅しますが、第2語根の種類に応じて、母音の引き渡し方が異なります。

*第2語根が و のくぼみ動詞の場合、第2語根は自身の母音 [u] を第1語根に引き渡した後に消滅します。そのため、受動分詞は مَفُولٌ 型をとります。

(例) قَادَ 指揮する→ مَقْوُودٌ 中間形]→ مَقُودٌ [指揮される者、従卒]

*一方、第2語根が ي のくぼみ動詞の場合、第2語根は同様に消滅しますが、その出自の痕跡を残すため、母音 [i] を第1語根に引き渡します。そのため、長母音符号の و は強制的に ي に転化され、最終的に مَفِيلٌ 型をとります。

(例) هَابَ 畏れる→ مَهْيُوبٌ 中間形]→ مَهِوبٌ 中間形]→ مَهِيبٌ [畏れられた]

*なお、既に学んだように、くぼみ動詞の能動分詞は第2語根がハムザに変わるため、すべて فَائِلٌ 型をとります。

(例1) قَاوِدٌ قَادَ 中間形]→ قَائِدٌ [能動分詞/指揮する者、リーダー]

(例2) هَايِبٌ هَابَ 中間形]→ هَائِبٌ [畏れている者]


2 動詞派生形の受動分詞

*動詞の派生形では原則的に、能動分詞と受動分詞を区別するのは、第2語根の母音の違いです。即ち、能動分詞はカスラをとりますが、受動分詞はファタハをとります。

(例) اِقْتَرَحَ 提案する→ مُقْتَرِحٌ 能動分詞/提案者]

مُقْتَرَحٌ [受動分詞/提案されたもの、提案]

*ただし、次項以下で述べるように、くぼみ動詞やダブル動詞の場合は、この原則が崩れる場合があります。


3 くぼみ動詞派生形の受動分詞

*くぼみ動詞の派生形の場合、第2形・第3形・第5形・第6形・第9形1では、第2語根の و または ي は、通常の子音として強変化します。従って、分詞の態様は、規則動詞の派生形と同一です。

(例) تَجَوَّلَ 散策する→ مُتَجَوِّلٌ 能動分詞/散策者]

مُتَجَوَّلٌ [受動分詞/散策場所]

*ただし、第4形及び第10形では、能動分詞も受動分詞も第1語根がスクーンになるため、第2語根は自身の母音を第1語根に引き渡した後に、引き渡した母音に見合う長母音符号2に変わります。そのため、能動分詞と受動分詞を区別するのは、第1語根の母音の違いになります。

(能動分詞) أَرَادَ 欲する→ مُرْوِدٌ 中間形]→ مُرِيدٌ [欲する者]

(受動分詞) أَرَادَ 欲する→ مُرْوَدٌ 中間形]→ مُرَادٌ [欲されるもの]

*また第8形では、母音 [a] を持つ接中辞 تَ の影響で、能動分詞も受動分詞も、第2語根はともに長母音 [a:] を表すアリフに変わります。そのため、双方が同型になってしまいます。

(能動分詞) اِخْتَارَ 選ぶ→ مُخْتَوِرٌ 中間形]→ مُخْتَارٌ [選ぶ者]

(受動分詞) اِخْتَارَ 選ぶ→ مُخْتَوَرٌ 中間形]→ مُخْتَارٌ [選ばれた者]

*同様に第7形でも、第1語根が母音 [a] を持つため、第2語根は長母音 [a:] を表すアリフに変わります。そのため、双方が同型になってしまいます。

(能動分詞) اِنْسَاقَ 漂う→ مُنْسَوِقٌ 中間形]→ مُنْسَاقٌ [漂うもの]

(受動分詞) اِنْسَاقَ 漂う→ مُنْسَوَقٌ 中間形]→ مُنْسَاقٌ [漂う所]

*まとめると、以下のような表になります。



第2語根

例語

能動分詞

受動分詞

基本形

و

قَادَ

قَائِدٌ

مَقُودٌ


ي

هَابَ

هَائِبٌ

مَهِيبٌ

第4形


أَرَادَ

مُرِيدٌ

مُرَادٌ

第7形


اِنْسَاقَ

مُنْسَاقٌ

مُنْسَاقٌ

第8形


اِخْتَارَ

مُخْتَارٌ

مُخْتَارٌ

10


اِسْتَعَانَ

مُسْتَعِينٌ

مُسْتَعَانٌ


4 弱動詞派生形の分詞の活用

*派生形の能動分詞では第2語根は常に母音 [i] を持ち、受動分詞では常に母音 [a] を持ちます。また、弱動詞の派生形では、第3語根はすべて ي に転化します。このため、男性単数形では以下のような音韻変化が生じます。

*能動分詞の場合は、語末がカスラのタンウィーンに変わり、 قَاضٍ 型の三段変化をとります。一方、受動分詞の場合は、語末がアリフ・マクスーラに変わるため、最終的に格変化しないことになります。

(能動分詞) اِسْتَدْعَى 召喚する→ مُسْتَدْعِيٌ 中間形]→ مُسْتَدْعٍ [召喚する者]

(受動分詞) اِسْتَدْعَى 召喚する→ مُسْتَدْعًيٌ 中間形]→ مُسْتَدْعًى [召喚される者]

*男性双数形では、第3語根の ي が強変化するため、双数形の通常変化に従います。

能動分詞: مُسْتَدْعِيَانِ [主格]→ مُسْتَدْعِيَيْنِ 所有格・対格]

受動分詞: مُسْتَدْعَيَانِ [主格]→ مُسْتَدْعَيَيْنِ 所有格・対格]

*男性複数形は外部複数形をとりますが、以下のような音韻変化を生じ、能動分詞では主格がダンマの長母音、所有格・対格ではカスラの長母音になります。一方、受動分詞では、主格が [aw] の二重母音、所有格・対格では [ay] の二重母音になります。

能動分詞

(主格) مُسْتَدْعٍ [男性単数形]→ مُسْتَدْعِيُونَ 中間形]→ مُسْتَدْعُونَ [同複数形]

(所有・対格) مُسْتَدْعٍ [男性単数形]→ مُسْتَدْعِييِنَنَ 中間形]→ مُسْتَدْعِينَ [同複数形]

受動分詞

(主格) مُسْتَدْعًى [男性単数形]→ مُسْتَدْعَيُونَ 中間形]→ مُسْتَدْعَوْنَ [同複数形]

(所有・対格) مُسْتَدْعًى [男性単数形]→ مُسْتَدْعَيِينَ 中間形]→ مُسْتَدْعَيْنَ [同複数形]

*なお、女性形はすべて第3語根の ي が復活し、通常の格変化に従います。

*まとめると、以下のようになります。




能動分詞

受動分詞



主格

所有格

対格

主格

所有格

対格

男性形

単数形

مُسْتَدْعٍ

مُسْتَدْعٍ

مُسْتَدْعِيًا

مُسْتَدْعًى

双数形

مُسْتَدْعِيَانِ

مُسْتَدْعِيَيْنِ

مُسْتَدْعَيَانِ

مُسْتَدْعَيَيْنِ

複数形

مُسْتَدْعُونَ

مُسْتَدْعِينَ

مُسْتَدْعَوْنَ

مُسْتَدْعَيْنَ

女性形

単数形

مُسْتَدْعِيَةٌ

مُسْتَدْعِيَةٍ

مُسْتَدْعِيَةً

مُسْتَدْعَيَةٌ

مُسْتَدْعَيَةٍ

مُسْتَدْعَيَةً

双数形

مُسْتَدْعِيَتَانِ

مُسْتَدْعِيَتَيْنِ

مُسْتَدْعَيَتَانِ

مُسْتَدْعَيَتَيْنِ

複数形

مُسْتَدْعِيَاتٌ

مُسْتَدْعِيَاتٍ

مُسْتَدْعَيَاتٌ

مُسْتَدْعَيَاتٍ


5 受動態に関する注意

*派生形の受動分詞は、しばしば場所名詞あるいは時間名詞の機能を担います。なぜなら、基本形動詞とは異なり、派生形にはそのための特有な音型がないからです。

(能動分詞) اِسْتَرَاحَ 休憩する→ مُسْتَرْوِحٌ 中間形]→ مُسْتَرِيحٌ [休憩者]

(受動分詞) اِسْتَرَاحَ 休憩する→ مُسْتَرْوَحٌ 中間形]→ مُسْتَرَاحٌ [休憩地]

*既に第17課で述べたように、受動態におかれた動詞は文法的な主語を取ることもありますし、とらないこともあります。

(例) تُرْسَمُ دَائِرَةٌ 円が描かれます。

*ただし、受動態におかれた動詞は、西欧語の文法で言う「行為主補語」をとることはできません。たとえば「円がアフマドによって描かれる」と言う場合は、動詞を能動態にして、以下のように表現するしかありません。

(例) يَرْسُمُ أَحْمَدُ دَائِرَةً アフマドは円を描きます。

*なお、受動態には接続法も要求法もありますが、命令法はありません。

1なお、第9形に受動分詞はありません。

2カスラを引き渡した場合は ي に、ファタハを引き渡した場合は ا に変わります。