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ザイナブが彼女の部屋で座っていると、突然ベルの音が聞こえます。彼女が玄関に行くと、新しい本を持った一人の少年がいます。少年が彼女に尋ねます。

「ナジールはいますか?」

「はい、います。でも、彼は眠っています。」

「僕は本屋の息子です。これは父が遣わした本です。」

ザイナブは本屋の息子に感謝して、自分の部屋に戻ります。そしてナジールがベッドから起きた時、ナジールのところに行って言います。

「これは本屋さんがあなたに遣わした本よ。贈り物なの?」

「贈り物じゃないよ。昨日僕は本屋に入ったんだ。そして、この本を買って代金を払ったんだ。すると突然、男の子が泣いているのを聞いたんだ。外に出てみると、彼は一人だったんで、僕は彼に尋ねてみたんだ。」

「どうして君は泣いているの? 誰かにぶたれたのかい?」

「いいえ、僕は誰にもぶたれなかったよ。」

「君の名前は?」

「僕の名前はサミールさ。」

「どこに住んでいるの?」

「僕、わからない。」

「それじゃ、お父さんの名前は?」

「ハッジのアブー・バクルだよ。」

「そこで僕は彼の手を取って、一緒に町内の通りを歩き始めたんだ。そして一軒ずつ家の中に入って、こう尋ねたんだ。”誰かこの少年を知りませんか?”とか、”誰かハッジのアブー・バクルさんを知りませんか?”とかね。

ハッジのアブー・バクルの家をみつけるまで1時間かかったよ。だって、本屋から随分遠かったからね。僕が着くと、少年のお父さんはとても喜んで、僕にコーヒーをご馳走してくれたんだ。そして彼の家を出る時、僕は本のことはすっかり忘れて、本屋には戻らなかったんだよ。」